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スクラッチ開発とは?メリット・デメリットとパッケージ・クラウドECとの違い
スクラッチ開発とは、既存のパッケージやテンプレートを使わず、システムをゼロから作る開発手法です。自由度は最も高い一方、EC構築では初期費用1,000万円〜・期間6か月〜1年以上が目安になります。
はじめに
ECサイトの構築方法は、事業規模や目的、求める機能レベルによって最適な選択肢が変わります。なかでも「スクラッチ開発」は、ゼロからオリジナルのシステムを作り上げる、最も自由度の高い手法です。
一方で、ECサイトの構築手法としてスクラッチ開発が選ばれるケースは、近年では限られています。ASP・パッケージ・クラウドECといった選択肢が成熟し、フルスクラッチの開発期間が一般に6ヶ月〜1年以上かかるのに対し、パッケージ型なら3〜6ヶ月で構築できるためです。スピードとトレンドの移り変わりが速いEC領域では、この差は無視できません。
この記事では、スクラッチ開発の意味やメリット・デメリットを整理したうえで、パッケージ開発をはじめとするほかの構築手法とどう違うのか、そして自社にとってどの手法が最適かを判断するためのポイントを解説します。
スクラッチ開発とは
スクラッチ開発とは、既存のパッケージソフトやテンプレートを使わず、ソフトウェアやシステムをゼロから作り上げる開発手法です。「スクラッチ(scratch)」には「最初から」という意味があり、完全オーダーメイドでシステムを構築することからそう呼ばれます。
ECサイトに当てはめると、楽天市場やAmazonに出店するのではなく、楽天市場やAmazonそのものを自分たちで作ってしまうイメージです。それだけ自由度が高い反面、相応のコストと時間を要します。
スクラッチ開発とフルスクラッチの違い
スクラッチ開発とフルスクラッチ開発は、基本的に同じ手法を指します。両者に本質的な意味の違いはありません。
厳密には、フレームワークや一部のテンプレートを流用しながらゼロベースで構築する場合を「スクラッチ開発」、それらを一切使わず純粋にゼロから書き起こす場合を「フルスクラッチ開発」と呼び分けることがあります。とはいえ、いずれも既製品を土台にしないオーダーメイド開発である点は共通しています。実務上は同義と捉えて問題ありません。
スクラッチ開発の著作権は誰のものか
スクラッチ開発で作られたシステムの著作権は、原則としてシステム開発会社(受注者)に帰属します。発注したユーザー企業ではない点に注意が必要です。
発注者からすれば「自社の要件で作ったのだから著作権は自社にある」と考えたくなりますが、著作権法上は実際に制作した側に権利が発生します。著作権を自社に移したい場合は、契約書に「受託者は委託者に対し、成果物の著作権を譲渡する」といった著作権の帰属に関する条文を明記しておく必要があります。
この一文の有無が、将来システムを改修・移管する際の自由度を大きく左右します。契約段階で必ず確認しておきましょう。
スクラッチ開発の進め方
スクラッチ開発は、「要件定義」「設計」「プログラム開発」「テスト」「運用」という5つの工程で進みます。このうち最も重要なのが、最初の「要件定義」です。
要件定義は、ユーザー企業が「どのようなシステムを作りたいか」「システムで何を実現したいか」を明確にするところから始まります。ここがあいまいなまま進むと、後続の設計・開発工程がすべてぶれてしまい、「思い描いていたものと違うシステムができあがった」という事態になりかねません。
仮に作り直しになれば、多大な追加費用と期間が発生します。要件定義の段階で開発の意図をしっかり固め、開発会社と密に打ち合わせを重ねることが、プロジェクト成功の分かれ目です。要件定義で決めておく項目は「ECサイト構築・リニューアルを外注する前に整えておくべき要件定義の全手順」で解説しています。
スクラッチ開発のメリット
スクラッチ開発の最大のメリットは、自社の要件に完全にフィットしたシステムを構築できることです。既製品の制約を受けないため、ほかの手法では実現しにくい独自要件にも対応できます。
独自性の高いシステムを構築できる
スクラッチ開発はゼロから構築するため、既存パッケージの仕様に縛られず、独自性の高いシステムを実現できます。他社が手がけていない事業を立ち上げる場合や、競合との差別化が事業の核になる場合には有力な選択肢です。
自社のビジネスや業務フローに合わせて、使い勝手やデザインを細部まで作り込めるのも強みです。「このシステムでは無理だった」という制約がほぼ起きないため、理想のシステムを追求したい場合に向いています。
事業者の都合で長期にわたり使える
スクラッチ開発で構築したシステムは、ベンダーのサービス終了やサポート打ち切りによって突然使えなくなるリスクが低い手法です。システムの権利と運用を自社側でコントロールしやすいためです。
自社にシステム開発部門がある場合や、信頼できる開発会社と継続的な協力体制を築けている場合は、必要に応じて迅速に改修できます。その結果、システムが陳腐化しにくく、長期にわたって使い続けられます。
改修の自由度が高く高速にPDCAを回せる
自社でエンジニアを抱えている場合、スクラッチ開発はサイト改善のスピードで優位に立てます。大手EC事業者の中には、マーケティング部門と開発部門が密に連携し、カート周りを内製で細かくチューニングしている企業もあります。
パッケージやクラウドECでも同様の改修は可能ですが、開発リソースを自社内に持つことで、施策の検証から反映までのサイクルを高速で回せます。ただし、これは相応の開発体制を維持できる企業に限られる強みである点には注意が必要です。
スクラッチ開発のデメリット
スクラッチ開発はシステム開発の理想形とも言える手法ですが、その裏返しとして、コスト・期間・人材の3点で大きな負担を伴います。
コストと開発期間が大きい
スクラッチ開発の最大のネックは、莫大なコストと長い開発期間です。フルスクラッチでのEC構築は一般に6ヶ月〜1年以上かかるとされ、要件によっては2〜3年に及ぶこともあります。これに対しパッケージ型は3〜6ヶ月、ASP型なら数日〜数週間で立ち上げが可能です。
限られた予算とスケジュールの中でECサイトを立ち上げなければならない場合、コスト比較の段階でスクラッチが選択肢から外れるケースは少なくありません。トレンドの移り変わりが激しいEC領域では、構築に時間がかかること自体が機会損失につながります。
開発者選びがプロジェクトの成否を決める
スクラッチ開発で構築したシステムの品質は、担当する技術者や開発会社の力量にほぼ依存します。要件定義はユーザー企業が主体で行うとはいえ、その要件を破綻なくシステムへ具体化するのは開発者の役割だからです。
ユーザーの要件を正確に汲み取り、緻密にシステムを設計・開発するには、高度な技術力と豊富なノウハウが求められます。しかし、業者選定の段階でその実力を見抜くのは容易ではありません。選定を誤ればトラブルや作り直しのリスクを抱えることになります。これもスクラッチ開発特有の難しさです。
完成した瞬間から陳腐化が始まる
スクラッチ開発のもう一つの課題は、システムが完成した瞬間から「陳腐化」のリスクにさらされることです。最新のトレンドやセキュリティ基準に追従し続けるには、自社で継続的に改修投資をしなければなりません。
経済産業省の「DXレポート」(2018年9月)は、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システム(レガシーシステム)が、企業のDXを阻む要因になると指摘しました。スクラッチで作り込んだシステムも、改修を続けなければ同じ状態になりかねません。一方、クラウドECのようなSaaS型では提供側がバージョンアップを続けるため、陳腐化への対応を自社だけで抱えずに済みます。手法によって、運用フェーズで背負うリスクの性質が大きく異なる点は押さえておきたいところです。
EC構築の5つの手法とスクラッチの位置づけ
ECサイトの構築手法は、大きく「ASP型」「オープンソース型」「クラウドEC」「パッケージ型」「フルスクラッチ型」の5つに分けられます。スクラッチ開発はこの中で最も自由度が高く、同時に最もコストと期間がかかる選択肢です。
まず全体像を、初期費用・開発期間・カスタマイズ性・運用負担の観点で整理します。
| 比較項目 | ASP型 | オープンソース型 | クラウドEC | パッケージ型 | フルスクラッチ型 |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期費用 | 無料〜100万円 | 100万〜500万円 | 数十万円〜(制作込みで300万円〜) | 500万円〜 | 1,000万円〜 |
| 開発期間 | 数日〜数週間 | 1〜3ヶ月 | 1〜3ヶ月程度 | 3〜6ヶ月 | 6ヶ月〜1年以上 |
| カスタマイズ性 | 低い | 高い | 中〜高(外部連携で拡張) | 高い | 非常に高い |
| 運用・保守の負担 | 提供側が対応 | 自社で対応 | 提供側が対応(自動バージョンアップ) | 自社・ベンダー | 自社責任 |
| 向いている規模 | 小規模・スタート期 | 小〜中規模 | 中〜大規模 | 中〜大規模 | 大規模・特殊要件 |
※費用・期間は構築費の一般的な目安で、要件によって大きく変わります(2026年10月時点)。費用の内訳は「ECサイト構築の費用相場・内訳は?」で詳しく解説しています。
ASP型は、ECに必要な機能をインターネット経由でレンタルする手軽な手法で、初期費用を抑えてすぐに始められます。一方でカスタマイズ性は低めです。オープンソース型は無料で公開されたソースコードを使う方法で、ソフトウェア自体は無料で自由度も高い一方、構築・セキュリティ対策・アップデートを自社で担う技術力が必要です。
パッケージ型は、既製のECシステムをベースにカスタマイズして構築する手法で、中〜大規模ECに広く採用されています。クラウドEC(SaaS型)は、提供側が管理するシステムを月額で利用しながら、外部連携やカスタマイズで自社の要件に合わせる手法です。パッケージに近い機能を持ちつつ、バージョンアップを提供側が担うため運用の負担を抑えられます。画面の作り込みを優先したい場合は、フロントを切り離して構築する「ヘッドレスコマース」という方式もあります。
スクラッチ開発とパッケージ開発を比較する際のポイント
スクラッチ開発とパッケージ開発のどちらを選ぶか迷ったときは、「本当に独自性が必要か」「いつまでに必要か」という2つの軸で判断するのが有効です。
独自性は本当に必要か
まず、これから構築するシステムに本当に独自性が必要かを冷静に見極めましょう。自社では独自だと思い込んでいても、実は既製品として提供されている機能であることは珍しくありません。
パッケージやクラウドECを十分にリサーチした結果、必要な機能が市場に存在しない、または類似品はあるが重要な機能が欠けている、という場合に初めてスクラッチ開発が候補になります。逆に、複数のパッケージを組み合わせたり大幅なカスタマイズを重ねたりするくらいなら、最初からスクラッチを検討したほうがトータルで安くなるケースもあります。
業務の緊急度・優先度で考える
次に、そのシステムが「急いで使いたいもの」か「数年かけてじっくり育てるもの」かという時間軸で判断します。
たとえば3ヶ月後には稼働させたいといった緊急性の高いケースでは、スクラッチ開発は不向きです。業務に合うパッケージやクラウドECを導入するほうがスピーディーでコストも抑えられます。一方、自社のコア業務に直結し、競合との差別化を長期的な戦略の柱に据えるシステムであれば、独自性を打ち出せるスクラッチ開発が選択肢に入ってきます。
スクラッチ開発は慎重に検討すべき理由
結論として、ECサイトの構築においてスクラッチ開発が選ばれるのは、現在ではかなり限られたケースです。「スクラッチでなければ実現できない」という強い理由がない限り、ほかの手法を優先的に検討すべきです。
その背景には、パッケージ・ASP・クラウドECといった製品・サービスが成熟し、多様なニーズに応える機能を標準で備えるようになったことがあります。かつてはスクラッチでしか実現できなかった要件も、いまでは既製のプラットフォームで対応できる範囲が大きく広がりました。「ゼロから作れる」というスクラッチの優位性は、相対的に薄れてきているのが実情です。
加えて、スクラッチ開発には膨大な費用と期間がかかるうえ、「思い描いた通りのシステムが完成しない」というプロジェクトリスクもつきまといます。まずは自社の要件を整理し、各手法の特徴を正しく把握したうえで、本当にスクラッチが必要なのかを見極めることが大切です。実際、念入りなヒアリングを重ねると、スクラッチ以外の手法でも要件を満たせると判明し、結果的にコストを抑えられるケースは少なくありません。
スクラッチの前に検討したいクラウドEC「メルカート」
メルカートは、中堅・大手EC事業者向けのクラウドECです。スクラッチ開発で負担になりやすい初期費用・構築期間・完成後の改修を抑えながら、標準機能と外部連携で独自の要件に対応します。
外部システムとの連携は、標準外部連携・公開API・開発外部連携の3段階です。基幹システムやWMS・MAツールなど、既存の資産を活かしながら必要な範囲から広げられます。「スクラッチでなければ難しい」と考えていた要件が、ヒアリングを重ねた結果クラウドECで実現できたケースもあります。導入企業の取り組みは「導入事例」で紹介しています。
機能は年約240件の自動バージョンアップで更新され、費用は月額に含まれます。完成後の陳腐化への対応を自社だけで抱えずに済むのが、スクラッチ開発との大きな違いです。サポート満足度は97%(ITreviewのレビューデータより)で、ECパッケージ「ecbeing」のSaaS版として、ecbeingが1,600サイト以上の構築で培ったノウハウを受け継いでいます。大規模なカスタマイズが必要な場合は、同じグループのecbeingも含めて検討できます。3〜5年の総額での比べ方は「ECサイト構築の費用相場」にまとめています。
よくある質問
スクラッチ開発とパッケージ開発、どちらが低コストですか?
初期構築費用だけを比較すれば、パッケージ開発のほうが安価です。スクラッチ開発はゼロから設計・開発するため、膨大な工数とコストがかかります。さらにスクラッチは導入後の保守も自社責任となるため、最新機能を自動で取り込めるSaaS(クラウド型)と比べると、中長期的な総コストは高くなる傾向にあります。
ECサイトをスクラッチ開発すると、費用と期間はどのくらいかかりますか?
一般的な目安は、初期費用1,000万円〜、開発期間6か月〜1年以上です。要件によっては数千万円規模、2〜3年に及ぶこともあります。完成後も保守・改修の費用が毎年かかるため、初期費用だけでなく3〜5年の総額でほかの手法と比べることをおすすめします。
独自のこだわりが強い場合、やはりスクラッチ開発しかないのでしょうか?
以前はそうでしたが、現在は必ずしもスクラッチである必要はありません。エンタープライズ向けのSaaSはカスタマイズ性が大きく向上しており、外部システムとの柔軟な連携も可能です。基盤は信頼性の高いSaaSやパッケージを利用し、独自のこだわり部分にのみリソースを集中させるほうが、結果的に成功率が高まるケースが多くあります。
スクラッチ開発で構築したシステムの「老朽化」はどう防げばいいですか?
スクラッチ開発の課題は、完成した瞬間から陳腐化が始まることです。最新のトレンドやセキュリティ基準に合わせて自社で改修し続ける必要があり、相応の追加投資が欠かせません。常に最新の環境を維持したい場合は、プラットフォーム側が自動更新を行うSaaS型ECへの移行も有効な選択肢です。
まとめ
スクラッチ開発は、ゼロからオリジナルのシステムを構築できる、最も自由度の高い開発手法です。独自性の高さや長期利用、改修の自由度といったメリットがある一方で、莫大なコスト・長い開発期間・開発会社選びの難しさ・完成後の陳腐化といったデメリットを伴います。
ECサイトの構築では、ASP・オープンソース・パッケージ・クラウドECといった選択肢が成熟したことで、スクラッチが選ばれる場面は限られてきました。「スクラッチでなければ実現できない」という明確な理由がない限り、まずはほかの手法で要件を満たせないかを検討することをおすすめします。
自社の事業規模・目的・スピード感を整理したうえで、各手法の特徴を踏まえて最適な構築方法を選びましょう。どの手法が自社に合うか判断に迷う場合は、構築手法ごとの違いを体系的に整理した情報も参考にしてみてください。